ゆうちょ肥大化させる政府素案、金融システム混乱の懸念高まる

(某会員誌向けに執筆したものです)
政府から、郵政改革の方向性が「郵政改革素案」として示された。現在の日本郵政(持株会社)、郵便事業会社、郵便局会社の3社を一体にして、それを親会社に、ゆうちょ銀、かんぽ生命の2社をその子会社にするというものである。出資関係はまだ明確ではないが、政府は親会社の株を2分の1以上保有し、親会社はゆうちょ銀、かんぽ生命の株を3分の1以上保有する、という形になりそうである。さらに、素案では、ゆうちょ銀などは、日本全国への金融サービスの供給義務を負わされることになっている。世界でも極めて希な金融のユニバーサルサービスである。ゆうちょ銀などが、政府の孫会社となり、事実上の政府系金融機関となる、ということである。この事実は重く受け止めなければならない。
現制度でも、ゆうちょ銀などは持株の日本郵政の子会社となっているが、2017年までに持株はゆうちょ銀などの全株を売却することが義務づけられている。これによって、ゆうちょ銀などは自立し、完全民営化されることになっていた。また、この完全民営化を前提に、ゆうちょ銀は従来の郵貯法から離れ、銀行法の規制を受け、同時に預金保険機構へも加入した。さらに、全銀協も、郵貯が政府保護を受けていたことから決済システムへの接続を頑なに拒否してきたが、完全民営化を前提にこれを認めることとなった。今回の見直しで、ゆうちょ銀などの「完全民営化」が見送られたことで、このスキームはすべて御破算になったみるべきである。
今回の素案では、ユニバーサルサービス義務などは、親会社に課し、ゆうちょ銀などは会社法で設立した民間の金融機関だとしている。銀行法が適用され、預金保険機構からも離脱しないようである。民間とは決定的に異なる事実上の政府系金融機関であるゆうちょ銀を、民間と同じルールで規制することが、日本の金融全体を乱すことにならないのか、大いに懸念されるところである。
その懸念は、ゆうちょ銀の預け入れ限度額の引き上げ論議にすでに現れている。政府は、現在1000万円の限度額を、大幅に引き上げることを目論んでいる。政府が公的金融の肥大化、民業圧迫路線を意味するゆうちょ限度額引き上げをせざるを得ないのは、ゆうちょ資金の減少傾向に歯止めをかけたいからである。民営化時点では200兆円を大きく超えていたゆうちょ資金は、今や180兆円を切り、数年後にはさらに20兆円ほど減るとも予想されている。国債運用に依存するゆうちょが、安定的な儲けを維持するには、200兆円を超える資金が必要であり、そのための限度額引き上げなのである。
しかし、ゆうちょ銀は、事実上の政府の金融機関であることを利用者に認識されており、預金はすべて政府によって保証されるものと考えられている。ゆうちょ限度額の引き上げは、そのままゆうちょ銀だけがペイオフ限度額が引き上げられたものと同様だ、と解されてしまう。このことを一番わかっていたのが、亀井郵政民営化・金融担当大臣である。ゆうちょ肥大化の影響をもっとも受ける信金、信組などの地域金融機関に対して、ゆうちょ限度額引き上げの代償として、ペイオフ限度額の引き上げを打診したのである。
しかし、信金、信組からは、「自分たちはメガバンクなどのペイオフ超過分を大きなマーケットとしている。ペイオフが引き上げられると、自分らの預金がメガバンクに流れるだけ、と」と断られる始末であった。
そもそも、郵政民営化は、巨大な公的金融を抱える日本の金融システム全体のゆがみを、ゆうちょを完全民営化することで、民間との対等の関係に持ち込もうとしたものである。「素案」は、ゆうちょを事実上国営化した上で肥大化させようとしている。さらに、銀行法や預金保険機構にそのまま居残らせるようとしている。このことで、日本の民間金融までも巻き込んで、金融システム全体を混乱させる懸念が高まっていることを、我々は直視しなければならない。