藤沢DP(討論型世論調査)

 国、自治体の政策過程へ、「審議会」などの形で、市民や有識者などの外部の第三者が関与する制度は長い歴史を持つ。しかし、この制度が有効に機能してきたかというと、疑問を持つ人が多いように思う。審議会は行政の隠れ蓑、と言われてきたし、有識者の中には、官僚の言うままの発言を繰り返す「御用学者」と揶揄される方も少なからずいた。
 去る2010年1月30日、私は神奈川県藤沢市の慶應義塾大学にいた。この日、ここで、藤沢市が主催する「藤沢のこれから、1日討論」というイベントが行われており、その見学に訪れたのである。
 このイベントには、258人の藤沢市民が参加し、朝の9時から夕方5時すぎまで「藤沢のいま」と「藤沢のこれから」というテーマで討論を行った。集まった市民は、若者からお年寄りまで様々な年代に及び、会社員や主婦といった、通常の討論集会には集まりにくい人々も多数参加していた。まず、この参加者が、通常のタウンミーティングと違って、ランダムサンプリングで選ばれていることが重要である。タウンミーティングが、特定の課題に利害があったり、関心がある市民が集まるのに対して、サンプリングによって平均的な市民が集まっているのである。
 この集会は、「討論型世論調査」と呼ばれる手法によって進められたものである。この「調査」は、二つのプロセスから構成される。まず調査の第一段階として、通常の世論調査と同様に、母集団である市民全体からサンプリングされたサンプルに対して、1000人規模の世論調査を行う。その後、調査の第二段階として、その調査対象者の中から250人から300人のサンプルを一つの場所に集めて、世論調査の内容について集中的に討論する機会をつくる。私が見学した「藤沢のこれから、1日討論」は、この調査の第二段階の「集中討論」にあたる。
 集中討論に際して、事前に中立性に配慮して作成された資料およびデータ集が渡されるほか、討論集会の場では専門家や政策担当者からの情報提供の機会も用意される。これらの情報を元に市民は15名~20名程度のグループに分かれて討論を行い、市民間で意見を交換する。この情報提供と討論のプロセスを経て、第一段階と同じアンケートを行い、討論をする前と後でどのような意見変化が生まれたかを観察するというのが討論型世論調査の骨子である。
 このように、討論型世論調査は実に手の込んだ調査手法であり、通常の討論集会や世論調査に比べて、時間的・金銭的コストもかかる。それでも藤沢市が調査の実施に踏み込んだのは、市民の代表者に藤沢市の現状の強みや課題をよく理解してもらい、市民同士で意見を交換してもらった後に出てくる、市民の声こそ、藤沢市の政策づくりに活用していくべきものだと考えたからであろう。
実際、第一段階の世論調査結果と、討論後の世論調査結果とでは一定の差が出たと言う。いわば、資料を見ながら、長時間議論をした結果、市民が自らの意見を変えることもあったとみていいはずだ。この討論後の結果を、より熟成された市民の意見=世論と見るのが、「討論型世論調査」の狙いなのである。
藤沢市は、今回の調査結果を、現在作成している藤沢市の新総合計画(行政活動の基盤となる中長期的計画)に反映していく予定だという。単なる世論調査でもなく、特定の利害を反映しがちなタウンミーティングでもない、この「討論型世論調査」だからこそ、それを真摯に政策に反映させる、ということである。
 選挙で選ばれた議員と、行政のプロである官僚とで行われる「代議制政治」が、真の意味での民意を十分反映しうるものか、との疑問が呈されている。そこに、なんらかの直接民主制的な契機の導入が必要だ、と考えられたらこそ、「審議会」などの制度が作られてきたのである。
今回、15人ほどの小グループに分かれて、藤沢市の将来を熱心に討論する姿を見て、この「討論型世論調査」は、その一つの試みとして注目に値すると確信したものだ。