電気自動車を考える

2009年9月に、会員向け雑誌に掲載した文章です
「脱皮」が必要な時代
ー電気自動車を手がかりにー
 「朝の来ない夜はない」―正月の新聞に毎年掲載される、主要企業の経営者の年頭挨拶の中に必ず見られる言葉である。特に昨年10月のリーマンショック以降は、日本経済は闇の中であり、企業経営は真夜中である。しかし、待っていても空ける夜ではない。
 「脱皮しない蛇は滅びる」―この経済、社会、政治、国際経済が大きく動く今こそ、企業経営には時代の変化に合わせた大胆な変革=脱皮が求められているのではないか。
 私は、2007年10月から郵便事業会社の社外取締役を務めており、郵便やゆうパックの配達車への電気自動車導入に取り組んできた。公共的な役割を担う企業として、環境への配慮は重要だとして、郵便事業会社は電気自動車の導入を決めた。09年8月、電気自動車の発売初日に、神奈川県の支店に数台の電気自動車が納入された。電気自動車の性能や発売が不確定な段階から、その導入の検討を決めた郵便会社の英断を評価してもらいたいが、それよりも驚かされたのが、電気自動車に対する松沢成文神奈川県知事の判断の速さ、確かさであった。
 神奈川県が電気自動車の導入を決め、自動車メーカー、ユーザー会社などと「神奈川県電気自動車普及協議会」を立ち上げたのは、2006年、まだ電気自動車が海のものとも山のものともつかぬ状態の時であった。当時は、環境対応車としては水素ガスを燃料とする燃料電池車が先行していた。神奈川県はその時期に、燃料電池車ではなく、電気自動車に絞り込んで導入策を進めていったのであった。
 数億円の水素ガススタンドが必要な燃料電池車は、卵が先かニワトリが先か、ではないが、スタンドができなければ燃料電池車は売れないし、燃料電池車がないとスタンドは使われない。一方、電気自動車は家庭電源で充電でき、充電スタンドも数百万円。今でこそ優劣は明確であるが、当時はそうではなかったのである。ちなみに、政府も燃料電池車を重視し、2010年度までに5万台普及という目標を立て、2004~07年度に約197億円を投入してきた。しかし結果は、2004年度末の61台をピークに、07年度末で42台。総務省の政策評価で厳しい指摘を受けている。郵便会社が、電気自動車をまず神奈川県で導入したのは、導入支援や電気充電スタンド普及支援がもっとも充実していたからである。
 政府の判断ミスも問題であるが、日本の自動車メーカーの中でも、電気自動車への消極的対応を見せたところもあった。電気自動車には、複雑なエンジンに替わって、シンプルなモーターが掲載される。変速機も不要だ。部品数は7割減とも言われる。電気自動車が普及すれば、エンジン、変速機の部品メーカーは立ちゆかなくなる。身内の部品メーカーを守るという後ろ向きの姿勢が、電気自動車開発を遅らせたのであれば、経営として致命的である。
経営判断が求められるのは、もちろんこういった新技術への対応だけではない。少子高齢化、人口減少の進行といった社会問題も経営に大きな影響を与える。ある自治体で、保育所建設に当たって、将来の高齢者施設への転用を想定して設計したとの話を聞いて、合点がいったものであった。
 しかし、今、経営判断の材料として急浮上しているのが、政策の動向である。リーマンショック以前にすでに日本は不況に落ち込んでいたが、私はその原因は政策にあったと見ていた。建築基準法、貸金業法、金融商品取引法、割賦販売法などの規制強化が、それぞれの市場を萎縮させたのは間違いない。また、昨年12月に成立した改正労働基準法で、来年4月からは残業代が、今の割増率25%が、最大50%にアップされる。これも経営への影響が懸念される。
 しかしこれからは、民主党新政権の政策で、市場動向はさらに大きな変化を受けることになる。子育て世帯に回る、年額5兆円超の資金がどう流れるのか、製造業への派遣労働禁止がどう影響するか等々である。さらに、民主党が制定を目指している「公開会社法」では、監査役会への従業員代表の参加も検討されている。いずれも、経営環境に大きな影響を与えるであろう。
今、経営にもっとも求められているのが、こういった政治も技術も社会も激変する時代へのスピード感のある柔軟な対応なのではないか。脱皮しない蛇は、滅びるしかない時代なのである。