2010年日本再生(「先見経済」2010年1月号掲載)

2010年日本経済再生・経済から見る2010年
□民主党政権に求められる政策の合意形成
私が密かに「恐竜論争」と名付けている経済政策の論争がある。1月の通常国会冒頭に提出される第二次補正予算について、亀井静香郵政・金融大臣が10兆円規模を主張し、これに対して、菅直人国家戦略担当大臣が「景気対策にお金を出せなんて、恐竜時代(の発想)だ」と批判したもの。菅氏は、「第一次補正の縮減分2.7兆円の復活で十分」との発想であった。
政策論争は大いに結構。しかし、しっかりとしたマクロ政策の合意が政権にないと、今後の政策運営が危ぶまれる。2010年の日本経済は、麻生政権の史上最大の景気対策の第一次補正予算の効果が薄れつつあり、二番底に落ち込む危機に直面している。これを回避できるか否かは、現政権の経済政策の舵取り如何にかかっている。それを見極めることが、2010年の日本経済の展望につながる。2010年の企業経営に必要なことは、この年の成長率や為替レートを予想することではなく、政策の見極めと、その結果、経済がいかなる状況に直面しても適切な対応ができるように準備することだと思われる。
 
 □評価されるべき13.9兆円の補正予算
 2009年12月現在、各国経済はリーマンショックからの回復過程にあると言って良い。これは、各国が協調して大規模な財政出動を行ったことによる。日本は、過去最大の規模の、13.9兆円の補正予算(09年度第一次補正)を組んだ。その内容は別として、その規模、スピード感は諸外国と足並みを揃えたものであり、日本経済、そして世界経済の回復に大きく寄与したことは間違いない。
 いうまでもないが、GDPは消費、投資、政府支出、純輸出で構成される。リーマンショックで消費、投資が大きく減退し、それを政府支出の臨時増加によって補おうとするのが現在の政策である。13.9兆円の規模がそれなりのものであったと私が評価したのは、消費・投資の減退を補う規模として、必要かつ十分なものであったからである。
 しかし、景気対策のための政府支出は麻薬でもある。消費や投資が回復しないと、今回の補正で言えば、消費税約6%分にも相当する13.9兆円の追加支出を延々と続けなければならない。それを避けるためには、この追加支出が、消費や投資の回復に結びつく必要がある。
 私が、この補正予算の規模は支持したものの「内容は別として」としたのは、この補正予算が、日本の消費や投資を持続的に増やす、つまり日本経済を成長路線に乗せるものとしてはきわめて物足りないものだったからである。各省庁の要求を万遍なく取り込んだもので、明確な成長戦略を欠くものであった。しかし、それでも、短期的には景気回復を見込めるものであり、その成果が今の回復の原動力であることは間違いないものであった。
 □補正予算削減が及ぼすマクロ経済への悪影響
 2009年8月の総選挙で、民主党が圧勝し、民主党、社民党、国民新党の連立内閣が発足した。この内閣が最初に取り組んだのが、この13.9兆円の補正予算の無駄を見直す作業であった。加藤寛氏が見事に「無駄を見直すという無駄な作業」と喝破したのは、補正予算の削減が、そのまま需要の縮減、つまりGDPのマイナスに直結してしまうからである。本来は、秋の臨時国会で第二次補正予算を組まなければならない時期に、大変な軋轢と議論の中で、2.7兆円の圧縮が決まった。これがマクロ経済に及ぼした悪影響は大きいと言わざるを得ない。
 鳩山政権は、臨時国会で提出できなかった第二次補正予算を、1月の通常国会冒頭に提出することとした。当初その規模は、削減分の2.7兆円であった。本来、秋の臨時国会でなすべき追加補正を勘案すれば、とても、効果が薄れてきた第一次補正の補強と言える規模ではなかった。
冒頭の恐竜論争。私は亀井派であり、10兆円規模でもおかしくなかったと考えている。逆に、菅氏の発想は、マクロ経済への理解不足が露呈したもの、と言わざるを得ない。そもそも民主党は、政権交代直後に、経済財政諮問会議の機能を停止させたが問題であった。。この会議は、縦割り行政の弊害を是正し、政治主導で、日本の経済財政運営をはかるという目的で設置されたものである。このメンバーには日銀総裁も入っており、財政、金融運営の調整の場でもあった。それを開催しないのであれば、国家戦略局(室)の発足や実質作業開始はなんとしても必要なはずであった。それを先延ばしにしてしまったために、民主党政権のマクロ経済政策の司令塔が不在になり、日銀との政策協議もままならないという状態が続いてしまっている。そして、その司令塔たるべき菅氏のマクロ政策への理解不足が懸念されるという最悪の状況であることは、しっかりと認識しなければなるまい。
ちなみに政権が決めた第二次補正予算は、7.2兆円。ほぼ亀井氏の10兆円と管氏の2.7兆円を足して二で割った数値である。景気の下支えにはぎりぎりの規模であった。
□何のための子ども手当か、目的を明確にすべき
 さて、ここまで民主党政権のマクロ政策の混乱を見てきたが、以下では民主党マニフェストに沿って民主党の政策を具体的に検討していきたい。民主党の政策の目玉は、中学生以下の子供に、年額31.2万円を支給して、総予算は5.5兆円(2010年度は半額)という子供手当である。今の社会福祉予算が2兆円であるから、その規模の大きさは想像を絶するものがある。
 問題は、この政策の意図が明確にされていないところである。子育て世代への家計補助なのか、少子化対策なのか、消費喚起による内需拡大策なのか。家計補助であるなら、高所得者への補助は必要ないはずだ。少子化対策であるならば、少子化の主たる要因は非婚化、晩婚化にあるのだから、子供手当で婚姻率があがるとは思えない。また、内需拡大を狙う点も、とりわけ高所得者への補助は貯蓄に回る可能性が高く、消費増による景気回復効果も期待ほどではないはずである。高速道路無料化や、ガソリン暫定税率の廃止や、農家所得保障なども同じように、政策意図、効果があいまいである。民主党のマニフェストに見る個別の政策は、少なくとも、景気回復や中期的な成長戦略から見ると、不合格である。
 □今年の経済動向は民主党政権の政策次第だ
 ここで忘れてはならないのが、日本の財政事情である。先進主要国の財政赤字累積額のGDP比は、60%前後であるが、日本は180%。これも想像を絶する水準である。国債発行を含めた綱渡りの国債管理策が必要な水準であり、いつ、国債暴落、金利急上昇になってもおかしくない状況である。
 民主党政権は、財政再建の重要性は認識しており、バラマキと批判された子供手当などの政策も、16.8兆円の所要額は、特別会計を含めた総予算枠100兆円超の中から捻出するとしている。このための作業の一つが、事業仕分けであった。しかし、2009年度予算をベースにプラスマイナス・ゼロとしても、税収や景気対策の如何で財政赤字や国債発行額はいくらでも拡大してしまう。これに対しては、09年度予算当初の、44兆円の国債発行枠を厳守する、との方針が示されていた。税収は減り、国債発行を増やさない、となると予算の総額は抑えられ、景気浮揚効果は期待できないものとなる。
 すでに述べてきたように、2010年の経済動向は、政権の政策次第である。たとえば、
①経済財政諮問会議に替わる、マクロ経済政策の司令塔を一日も早く実質的に機能させること。そこが、景気の二番底に直面している日本経済の状況を把握して、金融を含めた総合的な対策を打ち出すこと。
②09年度の財政規模は維持すべき。
③金融は、ゼロ金利への復帰を含めて、大胆な政策変更が必要。これは、円高回避のためにも必要。
④短期的な景気回復と、中長期的な経済活性化策=成長戦略を連携した政策を打ち出すこと。そのためには、マニフェストの見直しもやむを得ない。
 僭越ではあるが、こういった方向で政策が打ち出されれば、2010年の経済は混乱を回避できるであろう。しかし、そうでない場合は、厳しい局面を覚悟しなければなるまい。経済展望の前に、政策展望が必要な2010年である。