satorum8 のすべての投稿

『電子書籍アクセシビリティの研究』のアクセシビリティ

2,017年1月に、松原聡編著『電子書籍アクセシビリティの研究』(東洋大学出版会)を公刊しました。
「この本自体が、電子書籍読み上げ機能の実験体です」
「出版段階から、一冊まるごと極力誤読を少なくして音声読み上げすることを前提に作られた初めての書籍です」(下記リンク参照)。
アクセシビリティ実験体

1月30日に開催された公刊記念シンポのようすは、こちら、、
公刊記念シンポジウム

旧3本の矢を思い返す

安倍政権は、サミットで金融緩和、財政出動、構造改革でとりまとめを狙っている。なんのことはない、これは旧3本の矢だ。金融緩和は、利上げをしたくて仕方ないアメリカを巻き込んでの合意は困難。とりわけ、アメリカは円安誘導となる日本の金融緩和を強く牽制している。
財政出動。これをG7でもっとも財政状況が悪い、日本が主張するのは皮肉な事態だ。金融緩和は、アメリカの牽制で、さらにすでにマイナス金利まで導入して打つ手がない状態だ。構造改革は、今の景気回復には即効性がない。残るのは財政出動しかない。
2020年のプライマリバランス黒字化の目標達成が、極めて難しくなった今、財政出動は野党の攻撃対象となる。それを、G7での合意を旗印に、切り出したいのだろう。財政赤字累増の中での、財政出動は危険な手だ。すくなくとも、そうとう大胆な歳出構造の見直しや構造改革とセットであるべきだ。
旧3本の矢の時に、「構造改革」の矢をしっかりと放っていれば、もう少し事態はマシだったのではないか。岩盤規制を打ち破る、との勇ましい言葉が先行して、明確な成果が見えないまま、抽象的な「新三本の矢」に移行してしまったのは、僕は失政だと思う。
日本経済は、3本の矢の「金融緩和」で回復したのは間違いない。野党が何を言おうが、「株価8000円、円80円。厳しい新卒採用。」といった状況を打ち破る経済政策を、政権を担っていた民主党は何一つ出せなかった。格差とか、インフレ2%が達成できないとかの批判は、説得力はない。
しかし、株価を回復させ円安に導いた「異次元の金融緩和」は、継続性のある政策でないことは,黒田総裁ご本人が一番翌承知していたはずだ。財政赤字で発行した国債を、市場から日銀がかき集め続けられるはずがない。早い段階で、国債増発に歯止めがかけられることが、「異次元緩和」の前提条件だった。
異次元の金融緩和は、銀行にお金を貸しやすくさせる政策だ。企業の側にお金を借りたいというニーズ、投資マインドがなければそもそも効果が出ない政策だ。その投資マインドに火がつけられないまま=笛吹けど(企業が)踊らず=では、いずれ行き詰まる政策だ。
国内外の企業が、日本での投資意欲が高められるような政策、目に見える大胆な構造改革が今こそ求められているのではないか。G7での財政出動合意を目指す前に、企業の投資マインドと国民の消費マインドが高まる政策を、わかりやすく国民に示すべきだ。今一度、旧3本の矢を振り返る時期かもしれない。

安保法制について(9月1日)

安全保障法制の議論が最終段階となった。まず、私は憲法9条については、改正する必要があるとの立場にある。その第一の理由は、自衛隊は9条2項の「戦力」にあたると考えるからである。

話題の砂川判決では、憲法9条2項の「戦力」とは、「わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうもの」と、「結局わが国自体の戦力を指し」としている。アメリカ軍はこの「戦力」に該当しないので、日本に駐留していても、9条2項に違反しないとの趣旨である。

9条2項の戦力が「わが国自体の戦力」だとすれば、自衛隊は「戦力は、これを保持しない」に間違いなく抵触する。自衛隊の廃止がありえないとすれば、それを合憲とする憲法の改正が必要だとするのが、私の立場である。

「個別的自衛権はある」との政府の解釈は、司法による判断を受けたものではない。司法は、自衛権は認めるが、自衛隊については判断を下していない。自衛権を他国の軍隊=アメリカ軍に依存することを認めただけである。

憲法学者の多くが「集団的自衛権」は憲法違反だと言う。しかし、まずは自衛隊による個別的自衛権が、合憲か否かの判断を示すべきだ。最高裁は、米軍による自衛を認めているだけだ。

政府が集団的自衛権を砂川判決が認めているというのは、誤り。日本という国家が自衛をアメリカに頼むことを集団的自衛としているだけであって、自衛隊という戦力が、アメリカ軍と共同行動することを指していないからである。

憲法9条をもち、前文で平和主義を掲げることで、「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」とあるが、戦後70年を経て、名誉ある地位にあるのかどうか。平和憲法をもち、世界第三の経済力を持つ日本こそ国連の安保理の常任理事国にふさわしいのではないか。

しかし、常任理事国入りのメドはまったくたっていない。常任理事国は、第二次世界大戦の戦勝国であり、核保有国である。さらに言えば、中国、ロシアは、中華民国、ソ連からその地位を引き継ぐ正当性はないのに、常任理事国の地位にある。これが国際社会の現実である。

イラン核開発の交渉国。常任理事国の米、英、仏、露、中に加えてドイツの6カ国。日本はなぜここに入れないのか。イランと強い経済関係を持ち、平和憲法をもち、なにより、唯一の被爆国。やはり、「国際社会において名誉ある地位」は占められていないと「思ふ」。

株価2万円

2015年6月29日

先週、株価は20,700円で終えている。ギリシャ財政危機を控え、今日以降の株価は不透明 。今のうちに、、、 僕が、今の野党、民主党、維新の党に不満なのは、マクロの経済政策についての視点が極 めて甘いこと。政権のもっとも重要な政策課題の一つがマクロ政策だから。 アベノミクスの1丁目1番地は、「異次元の金融緩和」。これに尽きる。この結果、安倍内 閣成立前の2012年11月と、現在を比較すると、株価は9000円が20000円に。円は80円が 120円に。バブル崩壊後に低迷していた日本経済に、四半世紀ぶりに画期的な変化が現れ た。 二つだけ経済指標を出す。有効求人倍率は、0.80が1.17に。外国人旅行者は、622万人が 1341万人に。僕は、これが異次元金融緩和の、つまり安倍内閣のマクロ政策の結果だと思 っている。このマクロ政策を、民主党、維新の党はどう捉え、自らはどう異なる政策を出 そうとしているのか? 民主党は、2014マニフェストで「過度な異次元緩和」よりも、経済、財政状況、市場環境 を踏まえ、「国民生活に十分配慮した柔軟な金融政策」を日本銀行に求めます。」として いる。異次元緩和を「過度」ととらえ、「柔軟な金融政策」をとしている。 「異次元」だからこそ、「過度」だからこそこの成果に至ったのであり、柔軟な金融政策 、つまり従来通りの金融政策では、絶対に株価20000円、円120円はありえなかった。民主 党は、柔軟な金融政策を行っていれば、今のマクロ経済指標がどうなっていたかを、述べ るべきだ。 ここは、笑うしかないが、「異次元の金融緩和によるアベノミクス一本目の矢は、円高を 是正して株価を押し上げ、経済回復へのかすかな光をもたらしました。」「かすかな光」 が、このアベノミクスへの評価とは、、、まだ、「過度」だから「柔軟」に、という民主 党のほうが、ましと言うしかない。 「異次元の金融緩和」が、長く維持可能な政策とは思えない。おそらく日銀総裁自身もそ う考えているはずだ。しかし、四半世紀続いた経済スランプを脱するには、この特効薬し かなかったはずである。 民主党と維新の党が、政権を目指すのであれば、まずはこのアベノミクスの第一の矢につ いて、明確な評価を示すべきであり、その代替策を国民に明示しなければならない。その 結果、どういうマクロ経済指標がえられるのかも、である。

AIIB(その2)

これが可能となったのは、ADBへの出資比率であり、日本、アメリカがともにトップの16%ほどを占めており、日米が合意すればADBのトップは事実上決まってしまう。

この国際金融機関の歴代トップを、一国の財務省のNO2が独占してきたというこの事実だけで、AIIBの成功の根拠が示されたことになろう。さらに、このADBが途上国のニーズを満たしてこなかったという、実態的な批判も強かった。融資の制約や油脂決定までの時間がかかることなどで、途上国のニーズを満たすものではなく、その改革も遅々として進んでこなかった。

こういったことを、如実に証明するのが、AIIBの成功の前に、ADBが融資決定の迅速化などの改革をあわてて行っていることである。

AIIBに対して、日本政府は「組織運営のガバナンスや透明性」を求めており、現段階では参加を表明していない。しかし、アジアの大半の国、さらに英・仏・独・伊などの主要国が参加を決めている(最終的には各国での批准が必要だが)ということは、「ガバナンス・透明性」に大きな問題はないと判断しているということだ。

今後、大きなインフラ整備の資金需要が生じるアジアで、トップを日本の財務省OBが独占し続けているようなADBだけではダメだという、世界の世論が、中国の高度な外交戦略を後押ししたと考えるべきである。(completed)

AIIB(その1)

「AIIBの成功は、大蔵・財務のADB総裁独占にあり? 」

アジアに二つの国際銀行ができる。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と、日米主導のアジア開発銀行(ADB)である。途上国の開発の金融支援が二元化することは、効率的にみて、好ましいことではない。なぜADBがあるのに、AIIBが作られたのか。そしてそのAIIBにアジアのほとんどの国と、世界の主要国の57カ国もの国々が集まった。それはなぜなのか。
AIIBの成功を、中国の外交戦略の前に日本外交が敗北したとかも言われている。しかし私は、この成功の原因は、日本の財務省のADBへの関わりへの世界の批判があったとみている。
ADBは、日本の旧大蔵省の主導で、1966年に発足した。本部こそマニラにあるものの、以下に示すように歴代総裁はすべて日本人である。

渡辺武                                   1966年11月 – 1972年11月
井上四郎                              1972年11月 – 1976年11月
吉田太郎一                         1976年11月 – 1981年11月
藤岡眞佐夫                         1981年11月 – 1989年11月
垂水公正                              1989年11月 – 1993年11月
佐藤光夫                              1993年11月 – 1999年1月
千野忠男                              1999年 1月 –   2005年2月
黒田東彦                               2005年 2月 –  2013年3月
中尾武彦                               2013年 4月 –

現日銀総裁の黒田東彦氏の名前が見られるように、彼らはみな大蔵・財務の出身者であり、NO2の地位である「財務官」出身者である。国際機関であるADBが実は、財務省の天下り先となっているのである。(to be continued)

ふぐの白子酒

最近のお気に入り。ちょっと高いんだけど、「ふぐの白子酒」。丁寧に白子をすりつぶして、(それこそ10分もかけて)、熱いお酒に。どぶろくのように白濁し、味はやわらかい。あるお店では「これを飲んじゃうと、ひれ酒は飲めなくなりますよね」と店主が。御意。

日本国憲法の平和主義

日本国憲法の特色に、基本的人権の尊重、三権分立、平和主義があげられるが、前2者は現代の主要国家共通のものであり、平和主義こそが日本国憲法独自の特色である。この平和主義は、憲法前文の「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会」という認識と、それに基づく憲法9条の「戦争」「武力の行使」を放棄し、「戦力」を保持せず、「交戦権」を認めない、から成っている。
憲法9条の是非やその解釈は、多く議論されているが、私はなによりもこの9条を支える憲法前文の世界情勢や国際関係についての見方、認識について議論すべきだと考えている。

人類は二度の世界大戦を経験しているが、第一次世界大戦では、戦後、戦勝国も軍縮に取り組んだ。戦争のない世界を、軍縮により実現しようという思いがあったのである。しかし、第二次大戦では、敗戦国である日本、ドイツ、イタリアに武装解除を求めたものの、戦勝国は軍縮に取り組むことはなかった。軍縮により平和の実現をはかろうとした第一次大戦後と違い、第二次世界大戦後の国際社会は、戦勝国の武力でもって、平和を維持しようとしてきたのである。
憲法前文にある「平和を維持し、専制と隷従・・を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会」とは、日本の憲法9条にある武力放棄でもって平和を志向するものはなく、戦勝国の武力でもって平和を維持しようとしたものなのである。
このことは国連の、国際社会の平和の維持のもっとも重要な役割を占める安全保障理事会の常任理事国を、戦勝国5カ国が独占を続けていることからもあきらかである。これらの国は、すべて核保有国でもある。

「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」とある。もしこの理念が現実の国際社会の中にもあるのであれば、戦後70年近くにわたって世界の憲法の中でも稀な平和主義を掲げる憲法を維持してきたわが国こそ、安全保障理事会の常任理事国という「名誉ある地位」を得て当然のはずである。しかし、現実には得られていない。

さらに、戦後の国際社会は実際に多くの戦争、紛争を経験してきた。「平和を愛する諸国民」同士が、戦争を繰り返してきたのである。また日本の国民を拉致し、日本に向けてミサイルを発射する北朝鮮も国際社会の一員である。国際関係は日々、変化するものである。終わったと思われていた冷戦が、ウクライナ危機で復活しつつある。またアメリカとの軍事同盟を1992年に破棄したフィリピンが、中国の脅威の前に再びアメリカとの軍事同盟を組んだ。これが、国際社会の現実である。

日本国憲法のすべての前提には、日本国民の「安全と生存」の保持があるはずである。これを、「平和を愛する諸国民」を信頼して保持できるのか否かが問われるべきなのである。

日本は、9条の規定にかかわらず、すでに現実に自衛隊という紛れも無い「戦力を保持しており、アメリカとの軍事協定の中でわが国の「安全と生存」を保持している。日本の「安全と生存」の保持の実際のあり方と、憲法前文、9条との間には間違いなく大きなギャップがある。ふと思い出したのが、1994年の自民党・社会党・さきがけの連立政権である。当時の自民党は、政権復帰のために、社会党左派の、護憲主義者の村山富一氏に国政を委ねた。その際に自民党中枢が村山氏に尋ねたのはたった二点だったという。ひとつは、自衛隊を解体するのか、もう一つが日米安全保障条約を破棄するのか。村山氏の答えはいずれもノーであったという。

集団的自衛権をめぐって、憲法解釈の変更が議論されている。今こそ、日本の「安全と生存」の保持のあり方を問いなおすいい機会である。私はその議論は、憲法前文の世界情勢「観」の見直しから始めるべきだと考えている。

障害者差別解消法施行へ

障害者差別解消法の施行(2016年4月)

1.国連障害者基本条約の批准
2.障害者差別解消法
3.「社会的障壁除去」の作業フロー
4.施行に向けての課題
5.補遺

1.国連障害者基本条約の批准

障害者差別解消法は、2013年6月19日参議院本会議で全会一致で可決され、成立した。これは、2006年12月、国連で採択された障害者権利条約の批准のための国内法整備の一環であり、その最終段階のものであった。

まず、2011年8月、障害者基本法が改正された。この改正では、障害の有無にかかわらず、人格と個性を尊重する「共生社会」の実現が目的に掲げられ(第1条=条文は文末、以下同様)、また、障害者の定義も見直され、「制度や慣行など社会的障壁により日常・社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」、とされた(第2条)。さらに政府に障害者基本計画の策定を義務づけ(第11条)、その計画策定への意見具申や、計画の実施の監視のために「障害者政策委員会」の設置も決められた(第32条 )。委員会は、2012年5月に設置され、その初代委員長が石川准静岡県立大教授であった(任期は2年。2014年8月段階で後任は未定)。

その障害者基本法の改正を受けて作られたのが、障害者差別解消法であった。そして、この障害者差別解消法の成立をもって国内法の整備が終わったとして、2013年12月、国連障害者権利条約が批准されることとなったのである。

2.障害者差別解消法

この法律は、先に成立した改正障害者基本法に則り、「社会的障壁」の除去について、行政機関等は義務(第7条2)とされ、民間の事業者は努力義務(第8条2)とされた。しかし、行政機関等や事業者は、社会的障壁の除去が求められているわけではなく、障害者からの除去を求める「意思の表明」(第7条2、第8条2)があってはじめてその除去が義務ないしは努力義務として実施されることになっている。さらに、除去の実施が義務である行政機関等も、除去のために「負担が過重」である場合は、その義務が免除される規定になっている(第7条2)。

また、「政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。」(第6条)とされている。この法律が実効をもって施行されるためには、政府がこの基本方針を速やかに定めなければならない。その方針を定める際には、実際の社会的障壁の除去にいたる作業フローを多面的に検討する必要がある。

3.「社会的障壁除去」の作業フロー

社会的障壁が世の中のあらゆるところに存在するものである以上、その除去に取り組むケースは数限りなく出てくるはずである。ここでは、【障害者が、視覚等が不自由といった理由で、ある公共図書館にある、ある紙の書籍が利用できないという社会的障壁に直面したケース】を例として取り上げ、行政機関等や事業者に求められる対応を検討していきたい。

作業フローは、まず、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」(第7条2)として、障害者が、ある図書館でそこの所蔵本の紙の書籍による読書ができないという「社会的障壁」の除去、つまり書籍の点字化、朗読、電子書籍化による音声読み上げや、拡大などを求める「意思の表明」を行うことから始まる。

そしてその表明を受けた「行政機関等」である公共図書館は、「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」(第7条2)ので、除去の実施に取り組むことになる。この作業フローの中で、少なくとも以下の3点は明確にされる必要がある。

第一は、【誰に表明するのか】である。まず「意思の表明」を誰に行うのかが問題となる。障害者には、一般には、「意思の表明」を誰にすればいいかは不明であるはずで、図書館職員の誰もがこの表明を受ける可能性があることになる。このため図書館では少なくとも、その表明を受け取る担当者が決められていなければならず、全職員にそのような「意思の表明」があった場合に、それを担当者につなげなければならないことが周知されていなければならない。

第二は【表明があった場合の対応】である。障害者からの、紙の書籍のままでは読書ができない、という「意思の表明」に対する対応方法も明確にされていなければならない。そこでは、①「意思の表明」を受けたことの確認(表明した障害者の氏名、受理日、受理者など)。②回答の期限、回答の方法の提示、が最低限必要である。その回答期限は、受理した機関によって大きな差があってはならないので、標準的な期限が定められるべきであろう。また、回答の方法は、「意思の表明」をした障害者の障害に応じて、電話、メール、郵送などの手段が、障害者と協議をもって決められるべきである。

第三は【回答の内容】である。行政機関等は、除去の実施についての合理的配慮が求められており、基本的には回答には、いつまでにどのような方法で社会的障壁の除去の実施を行うか、が記される必要がある。また障害者差別解消法では、障害者からの「意思の表明」があった場合の対応について、「その実施に伴う負担が過重でないときは」(第7条2,第8条2)という留保条件がつけられている。もし、障害者からの「意思の表明」にたいして、負担が過重であることを理由に対応しないとなった場合、その根拠、基準の説明が必要となる。また、その基準が、図書館ごとに異なることになると、対応できないことの当事者の納得や社会的合意を得ることは困難になる。「過重な負担の基準」についての、なんらかの指針も必要となろう。

ここでは、社会的障壁の除去が義務づけられている「行政機関等」を例としてとりあげてきたが、事業者はあくまで努力義務であるから、対応は不要ということにはならないはずである。たとえば、私立大学の図書館が障害者から読書についての社会的障壁の除去の表明があった場合に、事業者なのでその義務はないから、といって拒否できるであろうか?

障害者にとって、社会的障壁の除去の表明の相手が、行政機関等であるか、事業者であるかは、じつは関心のないことである。実際に除去されるかどうかが問題なのである。A社は誠実に対応してくれたのに、B社は門前払いだ、ということが起きづらくなる環境作りも必要であろう。

4.施行に向けての課題

障害者差別解消法の施行は、2016年4月であり、あと1年半強を残すにすぎない。しかし、社会的障壁の除去の実施に至る作業は複雑であり、様々なケースへの対応が求められるが、政府の「基本方針」が未だ示されていない。この法律が予定通り施行されるためには、一日も早く基本方針が定められ、それに応じた諸施策の準備が必要である。

2006年12月の国連の障害者権利条約の採択から始まった、日本の障害者政策の全面的見直しの総決算が、この障害者差別解消法ともいえる。この法の成立を受けて、その国連障害者権利条約を日本も批准することになった。

こういった長い道のりを無駄にしないためには、単に政府に対応を求めるだけでなく、この法律の意義を、障害者、行政機関等、事業者らの当事者だけでなく、人口に広く膾炙させる必要である。その広範な理解、支持の上で初めて、この法律のスムーズな施行が可能になるのである。

5..補遺
①障害者政策見直しの推移

2006年12月 国連で障害者権利条約が採択。
2007年9月 権利条約に日本政府署名
2008年5月 権利条約発効(中国など20カ国以上が批准)
2011年8月 改正障害者基本法が成立。
2012年4月 障害者政策委員会初代委員長に石川准氏
2013年4月 障害者差別解消法閣議決定、
2013年6月 障害者差別解消法成立、公布
2013年12月 国連障害者権利条約批准
2014年1月 国連が日本の批准承認
2016年4月 障害者差別解消法施行

②関係法令(本論で触れたもの)

障害者基本法第1条

この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

第2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。一  障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。二  社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

第11条

政府は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者のための施策に関する基本的な計画(以下「障害者基本計画」という。)を策定しなければならない。

第32条

内閣府に、障害者政策委員会(以下「政策委員会」という。)を置く。2  政策委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。一  障害者基本計画に関し、第十一条第四項(同条第九項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。二  前号に規定する事項に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に対し、意見を述べること。三  障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。3  内閣総理大臣又は関係各大臣は、前項第三号の規定による勧告に基づき講じた施策について政策委員会に報告しなければならない。

障害者差別解消法第6条

政府は障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。第6条 政府は障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。)

第7条

行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障害の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

(了)