障害者差別解消法施行へ

障害者差別解消法の施行(2016年4月)

1.国連障害者基本条約の批准
2.障害者差別解消法
3.「社会的障壁除去」の作業フロー
4.施行に向けての課題
5.補遺

1.国連障害者基本条約の批准

障害者差別解消法は、2013年6月19日参議院本会議で全会一致で可決され、成立した。これは、2006年12月、国連で採択された障害者権利条約の批准のための国内法整備の一環であり、その最終段階のものであった。

まず、2011年8月、障害者基本法が改正された。この改正では、障害の有無にかかわらず、人格と個性を尊重する「共生社会」の実現が目的に掲げられ(第1条=条文は文末、以下同様)、また、障害者の定義も見直され、「制度や慣行など社会的障壁により日常・社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」、とされた(第2条)。さらに政府に障害者基本計画の策定を義務づけ(第11条)、その計画策定への意見具申や、計画の実施の監視のために「障害者政策委員会」の設置も決められた(第32条 )。委員会は、2012年5月に設置され、その初代委員長が石川准静岡県立大教授であった(任期は2年。2014年8月段階で後任は未定)。

その障害者基本法の改正を受けて作られたのが、障害者差別解消法であった。そして、この障害者差別解消法の成立をもって国内法の整備が終わったとして、2013年12月、国連障害者権利条約が批准されることとなったのである。

2.障害者差別解消法

この法律は、先に成立した改正障害者基本法に則り、「社会的障壁」の除去について、行政機関等は義務(第7条2)とされ、民間の事業者は努力義務(第8条2)とされた。しかし、行政機関等や事業者は、社会的障壁の除去が求められているわけではなく、障害者からの除去を求める「意思の表明」(第7条2、第8条2)があってはじめてその除去が義務ないしは努力義務として実施されることになっている。さらに、除去の実施が義務である行政機関等も、除去のために「負担が過重」である場合は、その義務が免除される規定になっている(第7条2)。

また、「政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。」(第6条)とされている。この法律が実効をもって施行されるためには、政府がこの基本方針を速やかに定めなければならない。その方針を定める際には、実際の社会的障壁の除去にいたる作業フローを多面的に検討する必要がある。

3.「社会的障壁除去」の作業フロー

社会的障壁が世の中のあらゆるところに存在するものである以上、その除去に取り組むケースは数限りなく出てくるはずである。ここでは、【障害者が、視覚等が不自由といった理由で、ある公共図書館にある、ある紙の書籍が利用できないという社会的障壁に直面したケース】を例として取り上げ、行政機関等や事業者に求められる対応を検討していきたい。

作業フローは、まず、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」(第7条2)として、障害者が、ある図書館でそこの所蔵本の紙の書籍による読書ができないという「社会的障壁」の除去、つまり書籍の点字化、朗読、電子書籍化による音声読み上げや、拡大などを求める「意思の表明」を行うことから始まる。

そしてその表明を受けた「行政機関等」である公共図書館は、「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」(第7条2)ので、除去の実施に取り組むことになる。この作業フローの中で、少なくとも以下の3点は明確にされる必要がある。

第一は、【誰に表明するのか】である。まず「意思の表明」を誰に行うのかが問題となる。障害者には、一般には、「意思の表明」を誰にすればいいかは不明であるはずで、図書館職員の誰もがこの表明を受ける可能性があることになる。このため図書館では少なくとも、その表明を受け取る担当者が決められていなければならず、全職員にそのような「意思の表明」があった場合に、それを担当者につなげなければならないことが周知されていなければならない。

第二は【表明があった場合の対応】である。障害者からの、紙の書籍のままでは読書ができない、という「意思の表明」に対する対応方法も明確にされていなければならない。そこでは、①「意思の表明」を受けたことの確認(表明した障害者の氏名、受理日、受理者など)。②回答の期限、回答の方法の提示、が最低限必要である。その回答期限は、受理した機関によって大きな差があってはならないので、標準的な期限が定められるべきであろう。また、回答の方法は、「意思の表明」をした障害者の障害に応じて、電話、メール、郵送などの手段が、障害者と協議をもって決められるべきである。

第三は【回答の内容】である。行政機関等は、除去の実施についての合理的配慮が求められており、基本的には回答には、いつまでにどのような方法で社会的障壁の除去の実施を行うか、が記される必要がある。また障害者差別解消法では、障害者からの「意思の表明」があった場合の対応について、「その実施に伴う負担が過重でないときは」(第7条2,第8条2)という留保条件がつけられている。もし、障害者からの「意思の表明」にたいして、負担が過重であることを理由に対応しないとなった場合、その根拠、基準の説明が必要となる。また、その基準が、図書館ごとに異なることになると、対応できないことの当事者の納得や社会的合意を得ることは困難になる。「過重な負担の基準」についての、なんらかの指針も必要となろう。

ここでは、社会的障壁の除去が義務づけられている「行政機関等」を例としてとりあげてきたが、事業者はあくまで努力義務であるから、対応は不要ということにはならないはずである。たとえば、私立大学の図書館が障害者から読書についての社会的障壁の除去の表明があった場合に、事業者なのでその義務はないから、といって拒否できるであろうか?

障害者にとって、社会的障壁の除去の表明の相手が、行政機関等であるか、事業者であるかは、じつは関心のないことである。実際に除去されるかどうかが問題なのである。A社は誠実に対応してくれたのに、B社は門前払いだ、ということが起きづらくなる環境作りも必要であろう。

4.施行に向けての課題

障害者差別解消法の施行は、2016年4月であり、あと1年半強を残すにすぎない。しかし、社会的障壁の除去の実施に至る作業は複雑であり、様々なケースへの対応が求められるが、政府の「基本方針」が未だ示されていない。この法律が予定通り施行されるためには、一日も早く基本方針が定められ、それに応じた諸施策の準備が必要である。

2006年12月の国連の障害者権利条約の採択から始まった、日本の障害者政策の全面的見直しの総決算が、この障害者差別解消法ともいえる。この法の成立を受けて、その国連障害者権利条約を日本も批准することになった。

こういった長い道のりを無駄にしないためには、単に政府に対応を求めるだけでなく、この法律の意義を、障害者、行政機関等、事業者らの当事者だけでなく、人口に広く膾炙させる必要である。その広範な理解、支持の上で初めて、この法律のスムーズな施行が可能になるのである。

5..補遺
①障害者政策見直しの推移

2006年12月 国連で障害者権利条約が採択。
2007年9月 権利条約に日本政府署名
2008年5月 権利条約発効(中国など20カ国以上が批准)
2011年8月 改正障害者基本法が成立。
2012年4月 障害者政策委員会初代委員長に石川准氏
2013年4月 障害者差別解消法閣議決定、
2013年6月 障害者差別解消法成立、公布
2013年12月 国連障害者権利条約批准
2014年1月 国連が日本の批准承認
2016年4月 障害者差別解消法施行

②関係法令(本論で触れたもの)

障害者基本法第1条

この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

第2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。一  障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。二  社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

第11条

政府は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者のための施策に関する基本的な計画(以下「障害者基本計画」という。)を策定しなければならない。

第32条

内閣府に、障害者政策委員会(以下「政策委員会」という。)を置く。2  政策委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。一  障害者基本計画に関し、第十一条第四項(同条第九項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。二  前号に規定する事項に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に対し、意見を述べること。三  障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。3  内閣総理大臣又は関係各大臣は、前項第三号の規定による勧告に基づき講じた施策について政策委員会に報告しなければならない。

障害者差別解消法第6条

政府は障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。第6条 政府は障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。)

第7条

行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障害の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

(了)